研修会・セミナーの報告

東京研修会
さらにダイナミックな食の循環―”森は海の恋人”から

2010年5月16日
会場:日本女子大学 新泉山館 (東京都文京区)
100516

研修会の基調講演「さらにダイナミックな食の循環―”森は海の恋人”から」は、牡蠣養殖者であり、また「牡蠣の森を慕う会」代表でもある畠山重篤氏をお迎えして行われました。畠山氏が長年取り組まれてきた海の恵みである牡蠣を通して、山から海、そして食卓へと繋ぐ「食の循環」の営みについて、和やかに、また、その話術に魅了されながらお話を伺うことができました。講演内容を下記にまとめます。

世界各国には、様々な牡蠣の食文化を持った国があります。例えば、中国では干し牡蠣を広東語で「ホウシー」と呼び、広東の商人は正月に食べる風習があります。これは「髪菜ホウシー」という料理で、同じ発音の「発財好市(商売繁盛)」とかけているためと言われています。アメリカでは、ニューオリンズにブルーポイントというとてもおいしい牡蠣があり、シアトルには宮城産の牡蠣が養殖され、オイスターバーで出されています。フランスにも、とてもおいしいヨーロッパ平牡蠣がありますが、1970年代以降、寄生虫などにより激減しましたが、その需要をまかなうために、宮城産のマガキを輸入して養殖するようになったのです。それ以来、フランスなどで流通するカキの大部分は、日本由来のマガキです。これらのおいしい牡蠣の産地には、海に流れ込む大きな川があり、汽水域があることが共通しています。汽水域とは、淡水と海水が混じり合った塩分の少ない水(汽水、Brackish water)がある区域で、一般には川が海に淡水を注ぎ入れている河口部がこれにあたります。

三陸海岸は、リアス式海岸としても有名ですが、リアス式海岸には、汽水域が多くみられ、ここでさまざまな水産物の養殖が可能になります。リアス式海岸とは、スペイン北西部のガリシア地方で入り江が多く見られたことに由来し、スペイン語で「入り江」を意味するリア(r_a)からきています。このガリシア地方は、深い緑の森林を有し、この森林が豊富な海産物を育てているとも言われています。腐葉土の多い森から流れ出る河口付近の汽水域には、多くの植物性プランクトンが含まれています。この植物性プランクトンが、さまざまな海洋性生物の食物連鎖を生みだすのです。

恵みの多い海には、汽水域の他にもうひとつの条件があります。それは、「鉄分を多く含む」ということです。海藻や植物性プランクトンの生育には、水中の鉄分が重要であり、磯焼けの起きている地域では、海水中の鉄分濃度が極端に低下しているので、生き物が育ちません。また、鉄分は、川の水で陸から運ばれます。これはまさに畠山氏が求めていた「元気な海をつくるための、森の役割の科学的な説明」でした。植物性プランクトンが育つためには、リンや窒素、ケイ素などの肥料分が必要ですが、実は先に微量の鉄を取り込まないと、養分を吸収することができないのです。木の葉が腐って腐葉土になると、鉄イオンと結びついて、「フルボ酸鉄」という植物プランクトンに吸収されやすい鉄ができます。これが川の水によって海に運ばれるのです。つまり、川の上流の森、特に広葉樹林が海の恵みにはとても重要なのです。

皇后陛下の御歌に「子に告げぬ 哀しみもあらむ柞葉(ははそは)の 母清(すが)やかに老い給ひけり」があります。この「柞葉(ははそは)」とは、柞の木の生い茂っている森、母の意にかけて用いられています。この言葉に見られるように、森は母のようなもので、その森は海を育てているのです。「森は海の恋人」というキャッチフレーズは、「森は海を 海は森を恋いながら 悠久よりの愛紡ぎゆく」と歌った熊谷龍子さんに由来するそうです。どちらも、森への深い愛情が感じられる歌です。

「リアス式海岸とは」から始まり、世界の人々との連携、「森は海の恋人」の素敵なネーミング等をお話していただき、『食生態学―実践と研究』のキーワードの一つ「食の循環」に重要なものは何かについて、会員それぞれが感じることがあったのではないでしょうか。

文責:高増雅子(高増雅子)

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