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2014-04-28

設立10周年記念講演「NHK”サラメシ”はどのように創られ、人びとの心や食につながっているか」  2013.5.18

研修会・セミナーの報告

設立10周年記念講演「NHK”サラメシ”はどのように創られ、
人びとの心や食につながっているか」

2013年5月18日
会場:日本女子大学(東京都文京区)

130518

食生態実践フォーラム設立10周年を記念しての総会、共食の会に続いて、NHKの番組「サラメシ」の石井香織プロデューサーによる基調講演が行われました。

番組名の「サラメシ」とは、サラリーマンの昼食ということで、そのコンセプトは 「ランチをのぞけば人生が見えてくる」。働く人のランチをテーマに番組が作られた経緯が語られました。

最初に紹介されたVTRは、自転車で書類や小さな荷物を届ける「メッセンジャー」の女性の昼食。この仕事を7年続け、CMWCというメッセンジャーの世界大会でも決勝進出を果たしました。1日150㎞を走行する彼女の仕事に対する思いは、「人から人にモノを運ぶ仕事なので、人間らしいコミュニケーションを大切にすること」。そして昼食は、米1.5合で7つのおにぎりを作り、仕事の合間や仕事の途中で小まめに食べることでした。また、メッセンジャー仲間とのおやつの交換で、体力を使う仕事を乗り越え、コミュニケーションを図る様子が紹介されました。

次に紹介されたVTRは、聴導犬の訓練士の人たちの昼食の様子でした。各々が1人1品ずつ持ち寄る「1品持ち寄りランチ」で、犬の訓練という目的に向かう仲間のつながりを深める様子が紹介されました。

最後は、徹底的に「ハマグリ」をさまざまな料理にして食べ続ける、彩色絵師の女性の昼食。ハマグリを使った貝覆と呼ばれる日本伝統の美術品を作る創作作業の一環として、ひたすらハマグリを食べる「ハマグリづくし」の昼食。ハマグリを仕入れ、食べて、使う、よい貝を見極めること が、作品作りのもとになっていることが紹介されました。

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これらのVTRは、昨年末放送の「女子メシセレクション」より抜粋されたものとのことでした。番組制作の基本として、栄養的なことは考えず「リアルに食を伝える」ことを心がけているそうです。食べることが生きることと関わっている点に興味を持ってもらう、そのきっかけをつくる ことが、この番組の役割だと思っている、とおっしゃっていました。

VTR紹介の後、番組について話が続けられました。番組の柱は次の5つです。

1.職業=食

食から仕事が見える。特にランチと仕事は密接な関係にある。

2.「お弁当を見に行く」

フォトグラファー阿部了氏が全国を旅し、お弁当とそれを食べる様子を見て歩く企画。

○ お弁当から家族が見える

楽器リペリアセンターで仕事をする男性のお弁当…母が作り妻が詰める。母はこれを生き甲斐にしている。

○ おかずから地域が見える

能登半島で伝統的な塩づくりに取り組む浜士(はまじ)と呼ばれる塩づくり職人の弁当…サザエ弁当

3.働く人のリアルな「今」

街頭インタビューを通して、ランチへのサラリーマンの本音を切り取る。

○ さしメシ

「ランチをご一緒に」との声がけで、一緒に昼食を食べ、仕事やランチへの思いを聞く。

○ 漢字でサラメシ

「あなたのランチを漢字4文字で表すと?」との問いかけで、働く人のランチが端的に表れる。「朝食兼用」「唐揚最高」「和食大事」「二時間前」「美食昼食」「食足頭空」「妻庭内緒」「楽民見通」など。ちなみに、この街頭インタビューに答えてくれるのは、30人中3人くらいだそ うです。

○ ワケシリーズ

押しメシ(遅い昼食)それぞれに、事情がある。

4.視聴者からの声

投稿で寄せられたさまざまなランチの紹介。

○ クリーニング店で、アイロン台の下で温めて食べるお弁当。
○ 営業の女性のランチ。営業エリアごとに好きなパン屋を見つけ、成功したら「チーズパン」、失敗した日は「サンドイッチ」。

5.「あの人が愛した昼飯」

偉大な人の仕事を支えた食のプロたちと、食を挟んでの交流から見えるその人の素顔を探る。

番組のナレーターは、市井の人を演じることが多い中井貴一氏に依頼し、おいしそうなものをおいしそうに語ってもらっているとのことでした。

◎表現で大切にしていることは

「おいしそうに見えること」>

「笑顔をつなぐこと」

◎本音を表現できることがベース

食事のために集まる様子を大切に撮影している。ここに人間関係が表れるから。番組を見ている人が思いそうなことを、ナレーターに代弁してもらう。

◎共食という視点からの紹介は

①職場のシステムとしての共食ランチ

・新幹線清掃チーム
ランチのときは、その日担当する車両番号がはられた席にすわり、チームの結束、コンディションの確認をする。

・陶器メーカーでは、器と料理の関係を学ぶために、社員のお昼のまかないを、新入社員が担当。

②手作りのまかない

・会社のムードメーカーでもある看板屋社長のお母さんが「食は命をつくる」の信念で、毎日食事を作る。

③自然発生的に、共に作り(持ち寄り)食べる

・「お弁当を作る独身男性」がきっかけで、持ち寄りランチに発展。
・タクメシ(タクシードライバーの昼食)。タクシー会社の枠を超え、当番制で昼食の注文を取り、購入した弁当をみんなで食べる。

いいランチを食べようとしている人は、いい仕事をしている人。人として責任を果たそうとしている人が多い。

◎これまでの料理番組が主婦向け情報

「サラメシ」は、主婦以外を対象に考えてできた企画 なので、番組を見て「明日お弁当を作ろう」という気持ちになってくれることが嬉しい、と石井さんはおっしゃっていました。

質疑応答の後、出席者全員で「私のランチを漢字4文字で表現してみると?」という課題に取り組みました。グループにわかれて、グループごとの代表が発表しました。出てきた4文字は、

『誘惑三昧』『体話大事』『楽味囲卓』
『自己満足』『食順思考』『笑笑栄養』
『私的調整』『自己開発』『他力本願』
『学食万菜』『食欲天秤』『胃心交信』
『心暖人良』『時差座食』『一昼入魂』
『待通浸胃』『美食楽食』『自由自材』
『元気勤笑』『今三食目』

……と、個々様々なランチへの思いが伝わってきました。最後に講師の石井プロデューサーからは『早弁復活』、フォーラム理事長の足立からは『自由共「食」』の四文字の発表で、講演会を終了しました。

文責:原田のり子(フォーラム運営委員)