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2013-07-04

賽の目切りは犀の目切り?

これは職場恋愛で同居を条件に、農家の長男に嫁いだ姪(姪の父親の法事の日こと)の話。

「母には子育てでは本当に世話かけてきたが、父が送迎はしてくれた」と亡き父を偲び、夫(姪にとっての亡き父)の看病疲れで法事にも出られない母をいたわっていた。

私達は、嫁姑とは思えないような仲の良いところを見、いつも「息子より頼りになる」との挨拶を受けてきたので、意外に思えた。
訊けば、土・日曜日の出勤や出張の時にまで姑には頼めなかったとの話だ。
「苦労もあったんだね」
「そうですよ、いまだに解決していないことがあるんです」
私達は何事かと一瞬緊張した。
「お姑さんは賽の目切りを犀の目切りと間違えているんです。それが違っていると25年間経つのに正せないんですよね」
なーんだ、そんなことか。

嫁いで間もなく、姑に「豚汁をつくるからサイの目に切って」と、ごぼうを渡された。ごぼうを賽の目に切る? 
しばし考えていたら、「サイの目切りも知らないの、こう切るのよ」と、縦半分に切り斜め薄切り(すなわち、笹打ち)に切って見せた。
「ほら、体に似合わずやさしい目をした犀の目に、似ているでしょう」
「あ!そううか。お姑さん、豆腐を四角く切るのは何切りと言うんですか」
「あれはサイコロ切りよ。あなたはほんとに何も知らないのね」と笑われた。
「“ここに座りなさい”と正座して叱られたこともあったよ。でも、その度にお舅さんや(夫の)妹が、代弁をしてくれて助けてくれたのよ」
などなど、明るい姪は、深刻と思えることも、笑いながら沢山のエピソードを話してくれ、法事の場では不謹慎にも、私たちは涙が出るほど笑ったが、彼女の目が一瞬光った。

私は、湿っぽくならないように「お姑さんは、ごぼうの“ささがき”をどう説明するかしら。葉の方向(逆さの方向)に掻くから“ささがき”なんだけどね、きいてみたら? ついでに犀の目切りの話もして…」と、犀の目切りの話に戻した。
「“ささがき”ってそうなの、でも、私が言うと大変になるから娘(姑にとっては孫娘)に教えてやってみようかな? 勇気がいるなー」
しばらく考えて「お姑さんが傷つくから、娘には我が家限定の切り方名として、結婚した時に恥を掻かないように教えておくわ」と。
「我が家限定」に、皆で大笑いをして、お開きに。

帰り際に、いつも仲良しにしてもらっているので心配はないことを強調しながら、「何にも知らない」といわれたことが、一所懸命育ててくれた父母に申し訳なくて、いまだに引っかかっているのだと、姪は涙の訳を私に漏らした。

親族が多い私は、毎月1回ペースで法事がある。
法事では、年老いた叔父叔母、兄弟の名代で参加する従兄や甥姪との久しぶりの対面に話が弾み、新たな発見、新たな関係もできる。
この日は天真爛漫だけが取り柄と思っていた姪のやさしい一面を発見した。

針谷順子(フォーラム副理事長)