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2022-09-07

持続可能で健康な食事と普茶料理

2015年6月、それまで住んでいたマンションから、北へ数百メートル離れた一戸建てに引っ越しました。一区画に16軒売り出されており、ゴールデンウィークに家族で見学し決めました。

16軒もの家が建つ敷地には、かつて文化庁より登録有形文化財の指定を受けていた「十州楼」という老舗料亭がありました。指定理由は、数寄屋風(茶室風の建物とこれに日本庭園を伴う建築様式)を意図した建物と庭のバランスを考慮した配置となっている点、本館(昭和11年)、離れ、長生殿(昭和12年)とも創建当初からほとんど改造がなく、また空襲にもあわずに現存している点であったそうです。また、「十州楼」(じゅっしゅうろう)と名づけたのは伊藤博文公だとか。

十州楼は普茶料理が有名で、子どもたちの保育園の送り迎えで通るたび、いつかは食べに行きたいなぁと思っていました。当時はそこに住むことになるとはまったく思っていませんでしたが。

普茶料理とは、江戸時代初期に中国から日本へもたらされた精進料理で、「普茶」とは「普く(あまねく)大衆と茶を供にする」という意味を示すところから生まれた言葉だそうです。普茶料理の特徴は、多量の植物油と葛(くず)を使うことだそうです。油が上手に使ってあるため、日本の精進料理のように淡白な味ではなく、現代人の嗜好にも合うようです。また、各自に膳が配られるのではなく、4人が1つの長方形の卓に向かい合って座り、食事をすることも特徴だそうです。

近年、持続可能な開発目標(SDGs)について、食事から達成しようとする活動の一つとして「持続可能で健康な食事」が注目されています。具体的な食事内容の議論の中で、日本の日常的な食事は、持続可能で健康な食事にかなり近いといわれています。しかし、欧米諸国の食事のみならず、日本の食事においても、赤身肉の摂取量を減らすべきだといわれています。植物ベースの食事が推奨されており、大豆ミートなどの流行にもつながっているのだと思います。

肉の代わりに大豆ミートなどを利用するという考え方もありますが、普茶料理のような食文化も活用していきたいものです。料理だけでなく食事の様式も含めて。

しかし、日本において、持続可能で健康な食事を実践しようと思ったとき、特に食料自給率をあげることが重要です。実は単純に伝統的な食文化の見直しや活用、肉より魚を食べましょうといったことではありません。だからといって、持続可能で健康な食事の実践をあきらめてしまっては、元も子もありません。先ずは関心を持ってよく考え、自分ができることから実践したいものです。

我が家には毎日、野良猫がやってきます。十州楼の常連客だったのだろうか……。

 

安達内美子(フォーラム運営委員、名古屋学芸大学)