市民大学の参加者から教えていただいた“フードメイト”の意味
勤務先の大学では、他の大学や近隣の教育委員会と共に市民大学を主催している。この市民大学の開催は、かなりの伝統と歴史があると聞いていたが、先日、私もその市民大学の1コマを担当する機会をいただいた。
大学院の教員がリレーのように講師を担当する全5回シリーズで、「皮膚の老化エビデンスで予防?健康は肌から?」というテーマで種々の専門の教員が担当した。
私の担当は、その中の4回目で、「健康へのバランスの良い食事の提案」である。もちろん、バランスの良い食事の提案」といえば、「3・1・2弁当箱法」(NPO法人食生態学実践フォーラム)であるので、それを主教材として展開することとした。
市民大学には、「非常に熱心な方が参加されるのよ」と伺っていたこと、また参加者の年齢や性別、ご経歴等も様々であることから、私も非常に緊張して準備し、当日を迎えた。
今回は、30代から80代までの幅広い層の方々が参加者であった。
そして、私にとって、初となる市民大学の講義で、私自身非常に大きな学び、そして大きな感動と勇気を与えてもらう経験となった。
まずは、講義開始前のことである。
当日は、早めに行って、機器類のチェックや教材の準備をしようと教室に約30分前には行ったが、なんと驚いたことに、土曜の午後のとても残暑の厳しい日であったにもかかわらず、講義開始の30分以上も前に8割位の方はすでにお集まりになっておられた!のである。
しかも、一番前の席から(最近の学生は、一番前にはなかなか座らないので……)資料を読んで待っていてくださったのである。
また、弁当箱法の学習では、実際に弁当箱やそのまんま弁当料理カード(足立己幸、針谷順子:群羊社)を用いて演習を行ったり、また、メジャコンのDVDを活用し、「3・1・2弁当箱法」のルールの確認を歌で一緒に行ったりし、参加者の方は、非常に熱心に参加してくださった。そんな学習の様子にも感激した。
そして、講義が終わった後も、参加者の方から「あのお弁当箱やカードは買えないのですか? あとはあの歌も」というご意見を多数いただいた。
「今、手持ちはないので、研究室には在庫があると思います」と申し上げると、「では一緒に研究室まで」と、講義の片付けまで一緒にしてくださり、5?6名の方と御一緒に研究室まで戻ってきたのである。
研究室の中では、そのまんま料理カードなどの教材などをご覧になったりしているうちに、各々、日々の食についてのお話を和気あいあいといろいろしてくださり始めた。
その中の、現在はお一人でお住まいになっているある女性の方のお話である。
「御歳は、80歳をすでに越しているのよ」とおっしゃりながら、日々の食事について、「今回のことをぜひ生かしてみるわ!」と、とても生き生きと、はつらつとおっしゃった。
そして、「ついつい、料理を作りすぎてしまってね、娘から、もうたくさん作っても以前と違って味も変わってきているから、御近所にはご迷惑になるから持っていかないで、って言われているのよね。だけど、少ない量が作れないし。ボケないために料理を作ることは良いって言うけれどね。そういうことだけでなくて、だれか、“フードメイト”が見つかったら本当は、いいんですけどね。」
とおっしゃったのである。
家族や、すでに知っている仲間だけでなく、フードメイトという新しい仲間との出会いも、食を通じてこれからも広げていこう、と考えられているのである。
そして、「2年ほど前までは杖をついていたのですが、食事とリハビリで今は杖なしであるけるのよ」
と、颯爽とリュックを背負い歩いてお帰りになられた。
また、他の方々も、「今は子どもたちも独立して家族の人数は少なくなったけど、孫が使えるようにお弁当箱がほしいわ」など、食が家族や仲間とのコミュニケーションのもとになっている様子や、どう工夫されているかなど、いろいろなお話を伺うことができた。
高齢者は食物のやり取りがある人の方がQOLが高いという研究結果を、武見先生が報告されているが、まさにその実際のお話を伺えた!と思いだした。
このフォーラムでも、食が自己実現であり、QOLにつながるという‘食’の意味をいろいろなお話で伺っているが、今回、市民大学にいらした参加者の方々からも、実際の生活の中でのそんな‘食’の生の意味を教えていただけたようで、何だかとても嬉しい気持ちでいっぱいになった市民大学の初体験であった。
「また、これを御縁に研究室に来させてもらいますね」と言ってくださったので、ぜひまたお話やそして得意料理など伺いたいと思った次第である。
吉岡 有紀子(フォーラム理事、相模女子大学)