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2014-05-02

「ごはん食推進フォーラム」~世界に誇る、私たちの和食~

会員名:足立己幸(フォーラム理事長)

和「食材」や和「料理」の特徴をうまくコーデネイトする
和「食事」力を育てる:「3・1・2弁当箱法」の提案

2014年2月26日に、農水省主催の「ごはん食推進フォーラム」~世界に誇る、私たちの和食~ が開催されました。会全体の主旨や内容は月刊エコノミストの紹介記事が簡潔で分かりやすいので、文末に添付します。
紹介文の中で、“足立発言に注目度が高かった”と書いていただいたためか、多くの方から何を話したのかと問い合わせが来ます。たいへんうれしく、感謝しております。

そこで、ここではパネリストとして説明をした(10分間)の内容について、当日使用したパワーポイントをもとに、要点を書かせていただきます。「3・1・2弁当箱法」の食教育・食育における意味や基本的な活用スキルについてはもちろんですが、ユニセフ無形文化遺産で急浮上してきた「和食」論や厚労省が検討をすすめている「健康な食事」論にも使っていただければ幸いです。

“和「食事」力”という新語をタイトルにしました

足立1
図1<クリックで拡大>


和食文化という語が歴史的な実績をふまえて今、国際的に再評価され、多くの議論や実践に使われていること、マスコミや専門家の学会等で和食論が大きく取り上げられていることは大変ありがたく、うれしいことです。しかし現実には、和「食材」や和「料理」または和「食具」や日本のハレの日の食事が取り上げられることが多いようです。これらはどれも大事なことですが、もっと日常生活に寄せて和食文化を考える必要があるように思います。この点からすると、現況の和食論は、和「食事」が積み残されて議論が進んでいるようです。

「食」の営みの全反映としての「食事」の営み

足立2
図2<クリックで拡大>


「食生態学」の創設期に第1案を作図し1)、その後進化しつつ研究や実践の下敷きに使用してきた、「人間・食物・地域の関わりとその循環図」の概念図2)の一つです。食事は食用生物を生産・加工した「食材」を、さまざまな場で「料理」にし、それらが食べる人びとのさまざまなニーズに合わせてコーデネイトされて、「食事」として営まれます。「食べる営み」の結果は人々の「食を営む力」を育て、「生きる力」を育て、これらは家族や仲間や地域の生きる力、ひいては地球全体の生きる力の形成に関わり、「次の食の営み」へ関わっていくという「食」の循環性を示しています。このすべての段階で、図の左側に示した食情報の受発信が「食」の循環にさまざまな影響を及ぼしてゆくことは言うまでもありません。

ここで注目したいことは、一食一食は、こうした「食」の循環の全反映(総括)であると同時に、次の循環の一部になるので、単に、個人的な問題だけではないということです。良い食事か否かについて、単に個人の好みや健康状態だけで決めるのでなく、地域の「食」の循環にとっての適否が検討されなければならないでしょう。

だから、“何をどれだけ、どのように食べるか”が個人としてだけでなく、地域全体として、国全体として、地球全体として問われる必要があると考えます。そして、いわゆる消費者側だけの問題でなく、生産・加工・流通側や、情報提供側(教育やマスメデアを含む)問題であるということです。

何をどれだけ食べたらよいかの答えを求めて

足立6
図3<クリックで拡大>


“何をどれだけ食べたらよいか” についてはさまざまな研究と実践が行われ、実績を上げてきました。しかし、“適量でバランスのとれた食事が必要なことをわかっているけれども実行できない”人が多い中、私は食生態学の仲間と共に、「料理選択型栄養・食教育の枠組み」の必要性を主張し、具体的には「主食・主菜・副菜料理を組み合わせる」指標を研究開発してきました3)

これは既に、厚生省「健康づくりのための食生活指針」(1985年)、農林省「日本型食生活指針」(1990年)、文部省・厚生省・農林省合同「健康づくりのための食生活指針」(2000年)、厚労省・農水省「食事バランスガイド」(2005年)、内閣府「食育ガイド」(2012年)、厚労省「健康日本21(第2次)」(2013年)等の行動目標や評価指標に取り上げられ、全国活用されている4)5)ので、本日参加の皆さまになじみ深いことと思います。

実践性の高い和「食事」力を育てる簡単ツール:
ごはんしっかり「3・1・2弁当箱法」

足立5
図4<クリックで拡大>

 

足立4
図5<クリックで拡大>

 

先に述べた「料理選択型栄養・食教育」の枠組みを基礎に研究開発してきた「3・1・2弁当箱法」について、和「食事」力形成との関係を示した図4です。これは本日初公開の図です。

「3・1・2弁当箱法」は、“1食に何をどれだけ食べたらよいか”について、だれもが理解し、自分のゴールを持ち、実行(つくる、食べる、伝えあう)しやすいように開発された、食事づくり(料理の組み合わせ)のものさしです6)7)8)

だれでもがマイペースで作ることができるように、「5つのルール」でキーポイントを示しています(図4の中央)。

「5つのルール」をしっかり守って1食を作ると不思議なことに、めざしたエネルギー量で、主要な栄養素がバランスよく組み合わさった、おいしい1食、しかも食料自給率が高い、健康な1食が出来上がります(図の右下)。
ポイントは「5つのルール」を正しく守ること。NPO法人食生態学実践フォーラム認定の「食生態プロモーターズ」が学習支援をすると、3回の繰り返し学習で、しっかりやれるようになることも確かめられています。

「3・1・2弁当箱法」を基礎にする食事・食事づくり法の目的は食べる人にとって適量で栄養・味・環境面からバランスの良い食事を準備し、食べることができるようになることです。加えて、“何をどれだけ食べたらよいか”を考え、準備し、食べる力や目測力を育てることです(図の左下)。(この点が、サプリメントでの栄養補給や、緊急時対応の弁当配布と異なります)自分にとって適量でバランスの良い1食について基本的な知識や態度とセンスと実行力を育てること(食べる人にとって適量でバランスの良い食事の目測力形成)です。

“毎日、毎食弁当ばかり食べるわけにはいかない”といって、「3・1・2弁当箱法」プログラムを拒否する人が少なくありません。その心配はありません。はじめは体格や健康状態にあったサイズの弁当箱を使って、自分の1食の全体量を把握する必要がありますが、望ましい1食の目測力が形成されてしまえば、どんな食器でもほぼ主食3・主菜1・副菜2の割合で料理を組み合わせることができるようになり、弁当箱は不要になるはずです。

早く力をつけたい時には、弁当箱を使って作った1食(組み合わせた料理)を、いつも使っている食器に移してみる、またはこの逆を繰り返しやってみることです。

「3・1・2弁当箱法」の開発で重視してきたこと(図の左側から全体)
私たちは多くの生活者のニーズをふまえ、「日本人の生活文化・知恵」を重視し、栄養学の研究成果を活用してきました。そのめざす方向は、“ひとり一人の健康・生活の質(QOL)と環境の質(QOE)のより良い共生ができる”地域社会づくりです9)

前述の料理選択型栄養・食教育を提案する時から、私は日本の食文化の知恵として、本膳の献立法を取り上げてきました。この図ではその代表的な献立法として”一汁三菜“と書きました。その意味には、”ごはんプラス一汁三菜“であること。菜の数をゆるやかにとらえ、時には一汁一菜(現実には実たくさんの汁を副菜料理扱いにする)も含んでいます。また、現代のライフスタイルの多様化の中で、汁を拡大解釈してお茶などの飲み物に置き換えることもよいとしています。“しっかりごはんの主食と主菜と副菜の組み合わせ”を“食事を構成するコアの料理”とする考え方です。この図で書いた“一汁三菜”とは現実の食生活に対応した“ゆるやかな一汁三菜”ということも出来ましょう。

以上の視野・視点で地域の食を考える時に問われるのは、現実のフードシステムが実践性の高い和「食事」力を実現できる状態にあるか? 地域住民はそうした内容の食物へアクセスできる食環境になっているか?ということです。図の右上に書いた農場、市場、食料品店、食堂やレストラン、学校・職場・施設、家庭等で、和「食事」力を発揮し、形成できる状態にあるか?です。そうでないなら、これから先どうしたらよいかを考えなければなりません10)

市販弁当の内容を「3・1・2弁当箱法」で簡単チェックしました

足立3
図6<クリックで拡大>

 

5~6年前に埼玉県内で購入したコンビニ弁当について、「3・1・2弁当箱法」を使って内容チェクをした写真です。(現在販売されている弁当を本日の例にすると、は販売元が一目で分かってしまいますので、昔のサンプルを出しました。)
上に3種類のコンビニ弁当の写真を、下はそれぞれの食べる人に適した1食のエネルギー量に対応して、左から900ml(2段重ね)、700ml、700mlの弁当箱に、コンビニ弁当の料理を移してみました。

左は全料理の量が少なく隙間が多いです。まず、ごはん量は2段重ねの1段一杯でよいはずですが、2/3ぐらいです。主菜量は全体の1/6量でぴったりですが、副菜エリアの半量が空いてしまいました。

真ん中の1食について、ごはん量はぴったりですが、主菜(焼肉と餃子と卵焼き)が多すぎて、副菜料理は少なすぎます。にんにくの芽の炒め物が2本だけで、他に何もありません。

右の1食について。これは受験前なのでカツ弁でした。680円も支払いましたが、栄養的には問題が多いです。とんかつが多くて魅力的ですが、その割にごはん量が少なく、副菜はさらに少なく、わずかなポテトサラダとパセリだけです。

残念なことに市販弁当の多くは、①全体サイズが大きすぎまたは、小さい。②主菜が多く、それに比して主食が少ない。③全体に副菜(野菜料理)が少ない。④副菜が多く見える場合でも生野菜が多い、という問題を持っています。

①は過多エネルギー量、または著しく低エネルギー量。特に後者のほとんどは主要な栄養素全体に有量が異常に少ない傾向です。

②は全体のエネルギー量は確保されたとしても脂質からのエネルギー比率が高い、または全体にエネルギー量が多い。その割には他の栄養素が確保されていない。そして、価格が高い弁当は上記②のタイプが多い傾向がみられます。

④の場合は限られた種類の食材で、しかもふわっと盛られており、「3・1・2弁当箱法」のルール2“しっかりつめる”をクリアしておらず、副菜料理(野菜を主材料にした)の実量が少ない場合が多いです。

なぜ、1食の適量やバランスチェクに「3・1・2弁当箱法」を使うことができるのでしょうか? その科学的根拠はあるのかと疑問を持つ人もおありでしょう。

「3・1・2弁当箱法」の食事法は、
和「食事」力形成に多側面から貢献できる

会員報告:足立
図7<クリックで拡大>

 

今日は、図の一番上に、「3・1・2弁当箱法」を基礎にしたモデル1食の写真を出しました。NPO食生態学実践フォーラムのメンバーが協力して作成したモデルメニューで、本日の展示コーナーで実物を見ることができます。

座り作業が多いサラリーマンの昼食を考えて、1食700㎉にしてあります。図4の中央に書いた5つのルールをふまえて、700mlの弁当箱を使っています。主食はごはん、主菜はサケのカレーフライ、副菜はいろいろ野菜の煮物、青菜のごまあえと昆布の当座煮の3種です。職場で食べることを考えてお茶を添えました。

図の上部、左の1食は弁当箱に詰めた料理を、いつも使っている食器(ごはん茶碗、皿や小鉢)に盛り替えたものです。左右を比較して、1つの弁当箱にこんなにたくさんの料理が入っていたんだ、と感嘆する人が少なくありません。

図の左半分は、この1食が従来から使っている食事のものさしでチェックした結果です。すでに、図3で見てきたように、食事摂取基準(学生時代に栄養所要量として学んだ人もいます)で代表される「栄養素のバランス」、六つの基礎食品や4群法等で代表される「食材のバランス」、そして今日の話題の「料理のバランス」を使いました。モデルメニューについて、それぞれの評価結果の概数を表に示し、かつ3者の関係がわかりやすいように線で結びました。

この1食は、めざした700kcalにほぼ近いエネルギー量で、主要な栄養素バランスが良好であることがわかります。食生活指針(2000年)の実践ガイドである食事バランスガイドのものさしで計ると、主食2SV, 副菜2SV, 主菜2SVになり、食事の栄養面から見て、合格です。

図の右側に、私たちが生活者として食事に求める特徴である、味、健康、食行動、そして環境の各面11)を取り上げ、検討結果の一部を書き込みました。私たちは食事に、単に栄養素摂取力や食材選択力をめざすのでなく、健康・心・くらし・地域や環境にぴったりの「食事」を準備して食べることができる力が育つことを目指しているのですから。

これらのすべてが良好であることが求められますが、現実にはありえません。これらの側面の全体を視野に持ち、食べる人のニーズや状態で優先順位を決め、他の側面とのうまい調整をしつつ、“その人にとって”望ましい1食を準備し、食べることが望ましいと考えます。この難題を、個人としても、家族や友人としても、地域としても話し合いながら、実行しやすい地域・環境づくりへとつなげたいものです。

こうしたことが可能な地域になるためには、繰り返しになりますが、生産・加工・流通・販売・提供にかかわる多くの人びとといっしょに、和「食事」力とは何か、どの方向が望ましいのか、実現するためにどうしたらよいか等について、情報やマインドを共有する場を、積極的に作っていかなければならないと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
(発言は時間切れで終わり、その後、他の発言者との討論が行われました)

足立己幸オフィシャルHPの内容を一部変更して掲載しています。

<参考文献等>

1)足立己幸編著. 食生活論. 東京: 医歯薬出版; 1987. 121.
2)足立己幸. 食生態学―実践と研究. 食生態学―実践と研究. 2008; 1: 2-5.
3)足立己幸.料理選択型栄養教育の枠組みとしての核料理とその構成に関する研究. 民族衛生. 1984; 50: 70-107.
4)足立己幸. 「3・1・2弁当箱法」は“何をどれだけ食べたらよいか”の具体的なイメージ形成を期待して誕生したはず―しなやかに展開する第Ⅲ期を迎えて、原点を問う. 食生態学―実践と研究.2013; 6: 2-5.
5)足立己幸他. “自分が何をおれだけたべたらよいか”のイメージを育てる―「3・1・2弁当箱法」を基礎にした食事・食事づくり法の実践. 日健教誌. 2013; 21(4): 338-346.
6)足立己幸, 針谷順子. 3・1・2弁当箱ダイエット法. 東京:群羊社; 2004.
7)針谷順子. 料理選択型栄養教育をふまえた一食単位の食事構成力形成に関する研究. 栄養学雑誌. 2003; 61: 349-356.
8)針谷順子, 足立己幸. 1食単位の食事構成法「3・1・2弁当箱法」の妥当性に関する栄養素構成面からの検討. 名古屋学芸大学健康・栄養研究所年報. 2014; 6: 33-55.
9))足立己幸. 生活の質(QOL)と環境の質(QOE)のよりより共生を. 日本栄養士会雑誌. 2008; 51:817-822.
10)足立己幸. フードシステムと「食」育. フードシステム研究. 2007; 14(1): 1-3.
11)足立己幸編著. 適量でバランスのとれた1食づくり「3・1・2弁当箱法」. 東京:公益社団法人米穀安定供給確保支援機構; 2013