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2022-10-31

恐怖と感動の山、羅臼岳

私たち夫婦はともに大学時代、ワンダーフォーゲル部に所属しておりました。今は夫婦二人の生活ですので、数年前から百名山プロジェクトを開始。学生時代から数えて、残りの百名山に登ろうというものです。

二女一家が札幌に住んでいることもあり、ここ数年、夏休みには北海道の山に登っています。一昨年は、利尻岳。昨年は、トムラウシ。そして、今年は羅臼岳を目指しました。

羅臼岳は、世界遺産、知床半島にそびえる火山群の主峰で最高峰の山です。もちろん、百名山の一つでもあります。今年4月の知床沖観光船事故は、まだ記憶に新しいことと思います。

8月17日、朝4時半、岩尾別温泉登山口を出発しました。北海道全域では前日まで大雨。この日もどうなるかと心配していましたが、雨足は少し弱くなっていたので決行です。

登りはじめて少しすると、「注意! ヒグマ出没多発区間」の看板が! 知床半島はヒグマの生息地として有名です。数年前には登山者がヒグマに襲われて死亡したなど、ヒグマに遭遇したという情報は常に耳にします。

鈴を鳴らしながら歩きましたが、はたしてそんなもので大丈夫なのか。前日にホテルで見た注意事項には、「ヒグマに遭遇したら、落ち着いて、静かに、走らない! ゆっくり両腕をあげて振り、穏やかに話しかける。クマ撃退スプレーがあれば準備しながら…」とありました。クマ撃退スプレーはもちろん持参しています。しかし、落ち着いて、静かに、穏やかに話しかけるなんて、できる訳がありません。

そんなことを考えながら、ドキドキ歩いているそのとき……、登山道脇の草むらから、大きな物体がザザッと出てきて、私たちの前を横切りました!

2頭のシカでした……。度肝ぬかれました。怖かった…。

でも、よくよく考えてみたら、この山にもともと住んでいたのはヒグマやシカで、人間は後からやってきたのです。「お邪魔します、通らせてね」という気持ちを忘れてはいけないのです。

ヒグマ出没多発区間をすぎると、雨が強くなってきました。ヒグマの恐怖からは一応開放されたので、ホッと一息と言いたいところですが、なんと登山道が川のようになっています。

最近の登山靴は昔と違い性能がすばらしいので、靴の中がぐちょぐちょになることはありません。しかし、濡れることを避けるために水の中ではなく端っこを歩いて、体力をものすごく消耗しました。そのうえ雨で寒い。トムラウシでの低体温症による死亡事故を思い出したりして、気持ちも落ちる。登山は楽しいばかりでないことを、ひしひしと感じながら。

そして、ふと顔を上げて道標を見ると「極楽平」とありました。「ちっとも極楽じゃないやん!」と大笑い!

標高が高くなるにつれ、岩場が多くなります。雨は少し落ち着いてきました。その反対に風が強くなってきています。極楽平までで既に体力を使い切っているので、風に飛ばされそうになりながら、必死に岩場を通過していきます。

そうこうしているうちに、下山してくる若い男性に会いました。この時間に下山してくるということは、硫黄岳から縦走してきたのかと聞いてみると、「風が強すぎて危険なので下山してきた」と。えーーー、上はもっと風が強いの。「私もここで引き返したい!」と夫に訴えましたが、せっかくここまで来たので頑張ろうと説得されました。もう足は動かず、一歩一歩は重くなるばかり。

それでもなんとか、キャンプ指定地の羅臼平まで来ました。ここにはフードストッカーがあり、食料はテントの中ではなくフードストッカーに保管することになっています。ヒグマに襲われないためです。

晴れていれば、羅臼岳の全貌が見えるはずですが、頂上はガスの中。そして、風はますます強くなるばかり。ハイマツの登山道を風と戦いながらすすみます。

やっとの思いで頂上直下の岩場までたどり着きました。先には、3人の若者男性3人組。そのうち一人は半ズボン。この寒さで半ズボンなんて! でも「やばい! やばい!」を連発しています。そう、本当にやばいのです。まともに立っていられない強風で、一歩踏み外せば滑落です。そして、頂上はものすごく狭い。男性3人組が足場を教えてくれました。ありがたいです。

そして、こんな私でもなんとか頂上を踏むことができました。

大学時代から何回も怖い思いはしていますが、今回もそれに匹敵する恐怖と感動の山でした。多分この先、忘れることはないでしょう。

次の日は快晴! 知床五胡から雄大な羅臼岳を撮影しました。当日はもちろん撮影する余裕などなかったので。

 

越智直実(フォーラム理事・有限会社OCHI NAOMI OFFICE)

 

 

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