2010-03-04
詩
私には、遠く秋田に住んで、お米を作り、牛を飼い、豚を育て、
比内鶏を育て、農家の生活や村の女性たちの生活を詠んでいる、
中村範子さんという親戚のお姉さんがおります。
昨年の夏、80歳を記念して詩集を出しました。次の2篇を紹介します。
はらみ漬
あかるい水屋の板の間に
俎をおいてどっかりとすわる
暑い盛りに畑で選りすぐった胡瓜
あの人へこの人へもと思いのたけを
びっしり漬けこむ桶の草々
周囲(まわり)に並べ
キャベツの葉をひろげ
その上に黄色い菊を敷き
細くきざんだ人参、大根を芯に
くるくるっと巻いて
固瓜の袋が裂けないように
そろりとつつこむ
それが味噌豆に入れる
はらみ漬
おはやさん
てる子じゃっちゃ
おぎよあば
身なりも呼び名もちがう
村の家の格式はあったが
子を産み育てながら
ふくらむはらみ漬に
どんな熱い思いをこめたことか
夕日のように老いていった彼女たち
大きな重石が底光る
水屋で受け継がれた
巻くしぐさよ 味よ
四月のはじめ
味噌煮は申の日
(1981年)
おいしい言葉
川原の家の二番目の子
とてもとても甘えん坊
ひとりで泊まっていけない
だが五歳の誕生日を迎えたとたん
「さきこ
おおきくなったらな
はたけほって
やさいつくって
あさみんなでたべるの」
目をくりくりさせ
おにぎり握る手つきで
「さきこ
おにぎりにぎれるようになったらな
のりこばっぱさ
にぎってもってくる」
ある日
りぼんで結えた短い髪
頭をかしげて考えている
「さきこつくった
やさいたべれば
のりこばっぱのかぜなおるのになあ」
なんとおいしい言葉よ
畑掘って出てきた
みずみずしい野菜のようにさくさくと
歯ごたえのある
私の探していた
日本一おいしい言葉よ
しみじみと
雪が白く
大地をおおいそめた日
(1992年4月)
鷲田 柔子(運営委員)