2010-03-13
認知症の父
認知症の父と暮らし始めて3年半がたった。
当初、笑い話ですんでいた様々な事柄が、ここ半年でかなり深刻化し、日常の一つひとつの動作に必ず介助が必要になってきた。
ずっと要支援2であったのが、いっきに要介護3に進んでしまった。
現時点で唯一、一人でできるとは「食べること」である。
食べやすいようにと、おかずは乳児用の角が立った白いお皿(絵柄と料理の区別がつきにくい、角があると料理をすくいやすい)に盛り付け、父の分だけお盆に並べて(そうしないと、他人の料理を食べてしまう)いる。
まだ箸は使えるもののかなりこぼれてしまい、隣で食べている3歳になったばかりの曾孫に「おじいちゃん、こぼしちゃったねえ。また、叱られるねえ。かずと一緒だねえ。」なんて言われるが、まったく気にせず黙々と食べる。
待っていることができなくなり、椅子に座るとすぐに食べ始め、やや満腹になると食卓を見まわし「これは何だろう」と他人のお皿に手をのばし、「お父さんのはそこに取り分けてあるでしょ」と母に言われる。
塩辛い味が好きだったので、今日のおかずは「味がしない」と言われるかと思っていても、特に何も言わず食べている。
見ていると、まさに“食べることは生きること”を実感させられる食べ方である。
満腹になると「あー、おいしかった。」と言ってくれるので安心するが、本当に本人が食べたかった食事なのかと思うと悲しくなる。
病気がもっと進行すると、食べる行為そのものも忘れてしまうそうだが、せめて「食べること」や「お腹がいっぱいになると幸せな気持ちなること」は、最後まで忘れないでほしいと願っている。
高橋 千恵子(フォーラム理事)