安定的に農作物を供給することと農作物の多様性を保持すること
2021年8月のある日、愛知県長久手市役所の食育担当部署である建設部みどりの推進課に、学生たちと伺う機会がありました。カウンターに長久手伝統野菜である「真菜」の種が置いてありました。見つけた私は一袋いただき、研究室に持ち帰りました。
12月になり一人の学生が、自分で食べたデザートの容器を眺め、「この容器で真菜でも育てたらかわいいよね」と言い、よその研究室から土をいただき、栽培を始めました。あっという間に芽が出て、7cmほどになりました。現在、植え替えを考えているところです。
「真菜」は長久手市のホームページ※によると、「野沢菜」や「小松菜」等各地にあるアブラナ科のツケナの仲間で、ダイコンの葉のような葉の切れ込みが特徴です。愛知県のお雑煮と言えば、餅菜(愛知県の在来野菜)を使ったシンプルなものなのですが、昔から長久手市では餅菜ではなく、真菜を使っていたようです。
12月に学生が栽培を始めた時に、雑煮の話もしました。
しかし、真菜は消費量が少ないため、栽培する農家が減ってきているとのことです。消費量が少ないのは、餅菜も同じで、需要が雑煮を食べるお正月に限定されるため、生産者は年間を通じて需要のある小松菜栽培にシフトし、時期になると小松菜を餅菜として販売するようになりました。
需要と供給の関係で栽培される農作物が決まるのは仕方がないことかもしれません。しかし、農作物の多様性が失われていくことも心配です。もし今後、小松菜のように単一に集約された作物が育たないような病気が流行したり、気候変化が起こったりしたらどうなるのでしょうか。栽培しなくなった伝統野菜、在来野菜の種はどのくらい保存できるものなのでしょうか。
1月15日、南太平洋のトンガ近海で100年に一度とも言われる海底火山の大爆発がありました。1991年には、フィリピンのルソン島西側にあるピナトゥボ山が、20世紀に陸上で発生した噴火として最大規模の大噴火を引き起こしました。その影響で日本は冷夏となり、米の歴史的大凶作をもたらしました。
私が子どもの頃、美味しい米の代表品種と言えば、ササニシキとコシヒカリでした。しかし、最近、ササニシキを見かけません。ササニシキは、コシヒカリと比較すると、粘りの少ないあっさりとした食感で、冷めても食味が落ちにくいのが特徴で、寿司米に適していると言われています。しかし、ササニシキは、病気や寒さに弱く、年々生産量が減少しているそうです。そして、生産量の減少の大きなきっかけになったのが、ピナトゥボ山の噴火による日本の冷夏だったともいわれています。
トンガの主食は多様なイモです。タロイモだけでも100種を超えるともいわれています。今回の災害をきっかけに、安定的な供給や、人々の需要によって、その多様性が失われないことを願っています。それらを優先した先に、トンガの人々の健康や暮らしの豊かさはあるのでしょうか。
フォーラム前理事長 足立己幸のブログもご覧ください。
※ 長久手市.長久手伝統野菜 真菜.https://www.city.nagakute.lg.jp/soshiki/kensetsubu/suishinka/denen/syokuiku/2071.html(2022年1月19日)
安達内美子(フォーラム運営委員、名古屋学芸大学)