蛸(タコ)の話
9月半ばに神戸で学会があり、折角なので明石の真蛸(マダコ)を、茹でダコと煮物、タコの卵の煮物にしたのをおいしく頂いた。
お土産にタコ飯の素を買って帰った。
明石で6~7月に水揚げされるタコは大変美味しく、この時期のタコを「麦わらダコ」と呼んでいるそうだ。
タコのうまさは歯ごたえと甘さが売りであるが、明石タコは、明石海峡の速い潮流が太くしっかりした足を育み、またエサが明石海峡に豊富で、「麦わらタコ」は、それに柔らかさが加わるのだそうだ。
関東では正月に酢ダコを食べるが、関西では「土用のタコは親にも食わすな」のことわざがあるほどで、夏至から11日目の半夏生に食べる。
タコをとるためのタコ壺漁の歴史は古く、弥生時代の遺跡からもタコ壺が出土している。
明石海峡は、今でも日本で最もマダコが取れるところで、全体の6割を「タコ壺漁」でとるそうだ。
先週、千葉沖で飯蛸釣りが話題になっていたが、糸にラッキョウをつけて海面に投げると、それに飯蛸が付いて上がってくる。
タコは、大根やラッキョウ等の白い物に興味をもつそうで、その特徴を利用した突き漁や一本釣り等で、タコを取る方法もある。
タコは軟体動物に属し、内臓の詰まった胴体は足と反対に頭のすぐ後ろにあり、足-頭-胴が一直線上にある頭足類であり、イカも同じ仲間である。
タコの寿命は案外短く、マダコで1年から1年半、イイダコは1年、ミズダコは4年だそうだ。
タコの脳とも言われている神経節や神経繊維は、8本の足に3億5千万の神経があり、筋肉が多いうえ筋繊維に方向性がない為、高温で加熱すると縮みあがって身が固くなってしまう。
タコを柔らかく煮るためには、すり鉢等にタコをいれて塩でぬめりを取ってからよく洗い、大根でまんべんなくたたく。
鍋で弱火にしてコトコトと、途中水を足しながら煮る。
柔らかくなってから味を整えるとおいしい煮ダコになるそうだ。私の家では、タコを桜色にするため番茶で煮るのと、タコを柔らかくするため大根と一緒に煮る。
タコと一緒に煮た大根がとてもおいしく炊き上がる。タコは、大豆や小豆と一緒に煮てもおいしい。
生きたタコを竹で組んだ枠に掛け一日干したものが、明石名物の干しダコである。
固く干し上がったものを火であぶり、包丁で刻んで食べるが、「タコ飯」の食材としても利用される。
昔は、「張りダコ」として売らていたそうだ。
この「張りダコ」が「ひっぱりだこ」と呼ばれるようになり、タコが干されている状態が、張り付けになった罪人の様子に似ていたことから、張り付けになる罪人のことを「ひっぱりだこ」というようになったそうだ。
しかし、現在では引く手あまたになるほど人気があることを指しており、意味がまるで違うというのもおもしろい。
もちろん、家に帰り、引っ張りダコの入ったタコ飯の素でタコ飯をつくって、家族と共においしく食べた。
高増雅子(フォーラム理事、日本女子大学)