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2011-01-11

母の沢庵(たくあん)、伊勢沢庵

正月の帰省の際、
思わぬこと(姉が階段から落ちで骨折。母も転んで手首を骨折)から
「母の沢庵」を漬ける体験をしました。
実家(伊勢・松阪)では85歳になる母が、
60年以上にわたって沢庵を漬けてきました。
この沢庵を、
私の調理学の恩師である上田フサ先生に褒めていただいた時には、
母はことのほか喜んでいました。
隣近所など、この母の沢庵を楽しみにしている人がたくさんいます。

さて、沢庵漬けは、サナに干してある大根を取り込むところから始まります。
そして、大根の葉を落として、根の部分だけにしなければなりません。
しかし、ただ葉を落とせばよいというのではないのです。
母曰く
「葉と根の境のところを上手に切らないといけない。
根を深く切りすぎると、
漬けている間に水分が抜けすぎる。浅く切ると、沢庵の先がかたくなる」
母のOKがでるまでには、何本もかかりました。

次に、糠床の準備。
「沢庵の素」(昔からある、かなりローカルな店から買ってくる。
黄色色素と甘み材料が主のようだ)に、
塩と糠と茄子の葉(夏に乾燥させ砕いておいたもの。沢庵の味が深まる)を混ぜる。
ただ、これも気なしに混ぜてはいけないのです。
まず、「沢庵の素」に少量の糠と塩をよく混ぜてから残りの糠を混ぜる。
先に少量で混ぜた方が、全体にムラなく混ざるとのこと。
確かに科学的に正しい。
またもや、経験知の一端をみました。

いよいよ樽に漬けます。
樽は木製で、80�径程のかなり年季の入ったものに、
大型のビニール袋を敷いてあります。
まず、樽の底に合わせた糠床の一部を敷き、大根をぎっしり並べる。
私も大根の並べ方はポイントのひとつだと思っていたので、
気をつけて並べたつもりです。
たが、さっそく、母のチェックが入り、最初からやり直し。
脇に座り、口頭で指示をしていた母がムクッと立ち上がり、
片手で大根を並べ始めました。
確かにちょっと違う。
周囲を高くすることで、全体の高さを揃えるのです。
大根の太さをそろえていくこともポイント。

大根が並べられたら、その上に糠床をまき、
これを2、3回繰り返したところで、
母が
「手で押さえるだけではだめ。足で踏んで!」
「去年は泰子(姉、かなりの体重)が踏んでくれたからうまく漬かった。
重量級もたまにはいいことがある」
とのこと。
今年は重量級の妹(私)がということか……と妙に納得しながら、
樽の上に登って大根を踏みました。

樽いっぱいに大根を漬け、最後に20�以上の石を2つ乗せた時は、
もうクタクタ。
沢庵漬けの作業がかなりの重労働であり、
85歳の母にはもう難しいことを実感しました。

写真は、昨年漬けたもの。
タクワン

実家の地方では、沢庵は輪切りではなく、縦の拍子木切りにします。
歯ごたえのよい沢庵を噛むと、ポリッといい音がします。
年老いた母は、最近、薄く輪切りにするようになりました。
それでも「やっぱり、沢庵が食べられるのはうれしい」とのこと。
松坂牛のすき焼きに、白飯とこの沢庵の組み合わせは、
この地域の冬のメニューの定番です。

平本 福子(フォーラム理事、宮城学院女子大学)