北海道の百名山・幌尻岳に挑む
北海道の百名山が、残り幌尻岳と雌阿寒岳の2山になり、この夏、夫と登ってきました(8月13~15日:幌尻岳、8月17日:雌阿寒岳)。幌尻岳は、百名山の中でも最難関とされており、死亡事故も多数報告されています。今回は渡渉が少ない「新冠ルート」を選びました。
18.5キロの長い長い林道歩き
ダートな道を車で走行3時間、イドンナップ山荘(営林署の作業小屋)に到着。ここから今日宿泊するポロシリ山荘まで、18.5キロの林道歩きです。
鉄のゲートをくぐると、そこからはクマの生息地。毎年クマの目撃情報が出ています。いざというときのためにクマスプレーを携帯し、クマ鈴をザックにつけて歩きはじめました。2泊3日分の食料と寝袋や着替え、それに加え、山靴では林道は歩きにくいので、山靴をザックに入れてランニングシューズにしたため荷物は重く、クマの恐怖と相まって気持ちは落ちるばかり。さらに、沢の音がすごくて鈴の音がかき消され、これではクマにわかってもらえないと、ラジオをつけ高校野球を聴くことにしました。
しかし、歩いても歩いても風景は変わらず。出発から5時間半、やっとやっと奥新冠ダムにたどり着きました。ここから、ポロシリ山荘まで1時間弱。
三角屋根のポロシリ山荘
HPで何度も見ていましたが、写真どおりの三角屋根のかわいい山荘です。でも山荘といっても避難小屋なので、常駐している管理人がいるわけでもなく、食事は勿論自炊です。
既に2階に2グルーフ、1階に3グループが宿泊していました。ガイドさん付きのツアーの人たちもおり、何と一人17万円(飛行機代別)かかるとか。それだけ大変な山とういことでしょう。
さっそく夕食の支度です。夕食とはいえ、軽量化のためジフィーズのチキンライス。小屋の中には沢の水が引かれており淀みなく出ていますが、北海道はエキノコックス(寄生虫の一種で、エキノコックスが寄生したキツネやそのふんに直接触ったり、ふんに汚染された山菜や沢水を口にすると感染することがある)の危険があるので、沢から引いた水は飲むことができません。携帯浄水器でろ過して、ジェットボイルでお湯を沸かし、チキンライスを作りました。
山小屋の就寝は早く、18:30には皆、寝袋にくるまっていました。明日は晴れますように。おやすみなさい。
いよいよ幌尻岳へ
3:30起床。私たちが一番に起きたかと思いきや、既に起きている人も。山小屋の朝は早いです。4:25、まだ薄暗いのでヘッドライトをつけて、クマ鈴を鳴らして出発です。いよいよ、標高差1300mを登って、幌尻岳へ。
今日ポロシリ山荘から登る人は、私たちともう一人の男性のみ。小屋に居た他の人たちは下山するそうです。普段なら人の少ない登山がよいですが、クマのことがあるので、一人でも多い方が心強い。でも3人だけとわかり、不安がよぎります。
熊笹のはえている登山道をガンガンすすみます。心配していた大きな渡渉は一つ。丸太がかかっていたので、難なく通過することができました。
この先は急登になり、息は上がるばかり。しかし周りを見渡せば、お花畑が広がっています。エゾリンドウ、ミヤマキンバイ、ハクサンチドリ、チシマヒョウタンボクなどが咲きほこっていました。お花畑に癒されつつも、ゴツゴツした岩の急登はさらに角度を増し、やっとの思いでたどり着きました。標高2052m、幌尻岳の山頂です!
奇跡的に晴れ、眼下にカールが広がる
朝から雨こそ降りませんでしたが、雲に覆われ、山頂での眺望は諦めていました。ところが、山頂は晴れ渡り、眼下に美しいカールが広がっています。18.5キロの長い長い林道も、クマの恐怖も、キツイ登りもすべて吹き飛ぶ感動でした!
しかも山頂にはたったの3人! このお盆のさなか幌尻岳に3人とは! 人気の山の頂上では、狭い場所で気を遣いながらお弁当を食べたりしているので、独り占めならぬ三人占めで、何ともゆったり開放感がありました。
ところで、イドンナップ山荘へ行くまでの林道入口からポロシリ山荘、幌尻岳までインターネットネットは全くつながりません。唯一つながるのがこの山頂です。心配しているだろう家族にLINEしたり、仕事のメールチェックをしたりしました。あとからガイドさんに言われたのですが、ネットがつながる山頂で天気予報を確認すべきとアドバイスされました。
余談ですが、ネットはつながらなくても、上記に書いたようにラジオはつながります。ラジオで「気象通報」を聴いて、各地の観測値と低気圧や前線を天気図帳に記入すれば、天気を予測することができます。この技は学生時代に習得しているので、天気図帳を持参しなかったことを後悔しました。何でもネットに頼る昨今ですが、アナログの技も捨てたもんじゃない!
下山、またも18・5キロの林道歩き、まさかクマ!?
最終日、またも18.5キロの林道歩きです。でも基本下りなので気持ちはラク。と思ったのは最初だけで、歩いても歩いても沢沿いの道。しかもこの日は暑くて、アブよけにかぶっていたネットがうっとおしい。お互いイラついているのがわかるので、自然に口数も少なくなり、ただただ歩くだけ。5時間近く歩いて、ようやく最後のゲートが見えてきました。
ゲートは狭い鉄の柵をくぐらなければならず、大きなザックを先に通し、そのあと人間がくぐります。そしてやっと、車を駐車しているイドンナップ山荘が見えてきました。青いレンタカーも確認できて、ホッとしたのもつかの間、この3日間を支えてくれたクマ鈴がないことに気がつきました。私はゲートをくぐったときに、夫が無理やりザックを通したからだとなじり、言い合いになりました。夫がゲートまで戻って鈴を探してくるというので、私一人を置いてクマに襲われたらどうするのか、と大ゲンカ。と、そのとき、林道脇の草むらから、ガサッ!? ドサッ!? という大きな音が! とっさにお互い手を握り、腰が抜けてその場に倒れ込みました。シカだったら背が高いので見えるはずだし、イノシシは居るわけないし、どう考えてもクマとしか思えない。腰が抜ける、というはじめての経験。ザックが重くて走れないので、一目散に歩いて駐車場にたどり着き、何とか無事に下山しました。
おまけ:マダニに刺されて帯広で病院へ
今年はマダニが多いので気をつけた方がいい、とワンゲルの後輩から聞いていたにもかかわらず、耳の後ろをマダニにやられました。気がついたのは、下山した翌日、帯広から阿寒湖に向かおうとしたときでした。痛くもかゆくもないのに、耳のうしろにでっぱりがあるので夫に見てもらったところ、マダニのお尻と脚だけ皮膚から飛び出していると。写真に撮って見せてもらおうとしましたが、グロテスクだからやめた方がいいといわれ、ビビりまくり。素人が取ると、マダニのからだが残ってしまい、結局切開して取り除いたというブログを読んでいたので、帯広で皮膚科を探して、取ってもらいました。
越智直実(フォーラム理事・有限会社OCHI NAOMI OFFICE)